璧を完うす(へきをまっとうす) 別館

日本人の良き精神、大和魂という璧(宝物)を損なうことなく次の世代へ完うしたい!そんな願いを込めたブログです。

翔べ!再び 国産の翼

三菱重工業が2013年の就航を目標に小型ジェット旅客機「MRJ三菱リージョナルジェット)」の開発、生産に乗り出すことを発表した。 本日3/30付の読売新聞社説でも取り上げられている。 国産旅客機 40年ぶり復活の夢とリスク(3月30日付・読売社説) 2006年9月30日唯一の国産旅客機YS-11が退役し、途切れてしまった日本航空産業の灯を再び点してくれることを期待したい。 airplane_ph_ys11.jpg
YS-11 日本エアコミューターHPより あまり知られていないが、YS-11の就航は、戦後失われた日本人の誇りを取り戻す出来事として、新幹線の開通、東京オリンピックの開催と並ぶ1960年代のビッグイベントだったのだ。 しかしそこまでの道のりは、長く、そして困難に満ちたものだった。 戦後、日本の再軍備を恐れるGHQによって航空に関するすべてのことは禁止され、日本航空産業は壊滅した。 SF講和条約後、1952年から航空活動も認められるようになったが、7年のブランクは大きく、また航空産業はこの間にジェットが主流になるなど大きく革新し、復興は至難の業であった。 このような状況の中で、日の丸航空産業復興の声を上げたのが、通産省重工業局航空機武器課課長の赤沢璋一氏だ。 ソロモン海海戦で九死に一生を得た赤沢氏には、生き残った命を国のために尽くそうという意志と、戦前戦中、世界でも高い水準にあった日本航空産業をこのまま朽ち果てさせてはいけない、という危機感があった。 赤沢氏の下、日本航空産業再生のため、国産旅客機の開発のため、そして技術の継承のため、集結したのが“五人のサムライ”だった。 ゼロ戦を設計した天才「堀越二郎」、B-29を迎撃、撃墜した“飛燕”を設計した「土井武夫」、幻の名機“紫電改”、世界最高の飛行艇“二式飛行大艇”を設計した「菊池静男」、九七式戦闘機、“隼”を設計した「太田稔」、世界周回航続記録を樹立した“航研機”“A26”の開発に携わった「木村秀政」の5人である。 いずれも高い技術を振るう機会を失い、不遇な境遇にあった。 赤沢氏が「日本の航空機を作りたい」と切り出すと、「ぜひ国産機を作らせてください」「大空を次の世代に受け渡そう」……とサムライたちの熱い思いが堰を切ったように次々と飛び出し、赤沢の胸は熱くなった。(「ものがたり日本の航空技術」より) 以後、赤沢氏は予算の獲得、組織の設立に官庁、政治家、業界各社を駆けずり回り、五人のサムライは基本設計に激論を交わした。 予算の獲得は困難を極めた。赤沢氏は睡眠時間を3時間に削り、精力的にあらゆるチャンネルに動き回った。 一方、五人のサムライはそれぞれが一国一城の主であったため、基本設計はなかなかまとまらなかった。 どうにか赤沢氏が獲得した予算で、なんとかまとめた基本設計からモックアップ(原寸大模型)を作成し、政官業界にアピールする作戦に出た。 これで国家プロジェクトに認められなければ、国産旅客機は夢と消えるところまで予算的に追い込まれていた。 モックアップ作戦は図に当たり、一気に国家プロジェクトとしてYS-11は動き出した。 だが、プロジェクトが軌道にのったこの時、60歳を目前にした五人のサムライは揃って辞任を申し出た。基本構想がまとまったこの時点で、気力も体力もある若い技術者にバトンを渡そうと考えたのだ。 サムライたちの遺した言葉は一言だけだった。「全力をつくしてほしい」(「ものがたり日本の航空技術」より) 後を継いだのは当時44歳、三菱重工業の東条輝雄氏(東条英機元首相のご子息)だった。 東条氏と若い開発スタッフは不眠不休で開発に取り組み、1000枚に及ぶ計画図面、そして約1万2000枚の製造図面を描き上げた。 そうして、テスト飛行、米国連邦航空局の試験飛行を経て、1965年4月初就航にこぎつけた。 (この間の艱難辛苦も想像を超えたものがあるがここでは割愛させていただいた。) その後1972年の生産中止まで182機の量産型を生産販売し、日本はもちろん、アメリカ、南米、フィリピンの空を翔けた。 最終的にプロジェクトとしては赤字ではあったが、戦前から培った日本の航空技術の継承、人材の育成に多大な功績があり、これは金額に直せば莫大な金額になるに違いない。 そして、YS-11は、何よりも日本人のプライドを取り戻してくれた飛行機だった。 その価値は計り知れない。 今回発表された「MRJ三菱リージョナルジェット)」のプロジェクトは第3の日本の空への挑戦だ。 戦前からの日本の航空技術を引き継いだ日本の翼が高く舞い上がることを期待している。 人気ブログランキングへ 人気ブログランキングへ 参考文献
ものがたり日本の航空技術 (平凡社新書)
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翔べ! YS-11 世界を飛んだ日本の翼
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